多くの方はDHAやEPAという名前を聞いたことがあり、それらが体に良いということもなんとなくはわかっていると思います。そして、DHA、EPAが魚に含まれていることも有名でしょう。
日本は海に囲まれた島国で魚が豊富にとれるので、日本人は他の国に比べて、魚介類の消費量が多いです。つまり、DHA、EPAの摂取量が多く、比較的、その効果を受けています。
それでは、DHAやEPAを摂取すると、どのような良いことがあるのでしょうか?体のどの部位に運ばれて、どんな作用をするのでしょうか?
ここまでわかっている人はなかなか少ないかと思います。
こういったDHA・EPAは栄養士の領分の話ですが、薬剤師が持っている本にも詳しく説明されています。お時間のあるときに読んでみてください。
レビューとは、あるテーマに関して、複数の論文の内容をまとめたものです。本に置き換えると、1冊の本ほど広くカバーしているものではないですが、本の中の1章程度にまとめられたものがレビューです。
こちらで紹介しているメタアナリシスと似たまとめ方ですが、まとめる方針が少し違います。
- メタアナリシス → 定量的な議論が中心(例:○%だけ差がある)
- レビュー → 定性的な議論が中心(例:内容が他の論文と比べて妥当か)
Reviewは、研究背景→手順→結果→結論という流れの論文ではないため、いつもとまとめ方が違います。ここでは、研究結果のみを色々紹介しているので、目次を見て、読みたい部分を探してみてください。
Danielle Swanson, Robert Block, Shaker A. Mousa
King Saud University
目次
オメガ-3脂肪酸とは?
EPA・DHAの構造
EPA・DHAとは、このような構造をしたものです。構造式の見方はwikipedia(化学式)をご覧ください。
右側の末端から数えて3番目(赤字)に二重結合(二本線)がある脂肪酸をオメガ-3脂肪酸と言います。
ちなみに、オメガ(ω)は、カルボキシル基(点線の四角)から数えて末端という意味です。普通はカルボキシル基から1つ目の炭素をα、2つ目をβとして表記し、γ、δ、ε・・・と続きます。しかし、DHAとEPAでもその数え方だと末端のギリシャ文字が異なり、他の脂肪酸も含めると、こんがらがってしまいます。
そこで、本来の数え方とは逆の末端=ωと定義することになりました。そうすることで、必ず、末端側(ω)から3番目と数えることができるようになります。
EPA・DHAの語源
EPAはエイコサペンタエン酸、DHAはドコサヘキサエン酸の略です。
名前が覚えにくいという方のために、理解の助けになる(かもしれない)語源を解説します。
エイコサペンタエン酸で見ていくと、
エイコサーペンターエンー酸に分解できます。
それぞれは次のような意味です。
エイコサ:20という意味の倍数接頭辞:炭素原子が20個
ペンタ:5という意味の倍数接頭辞:二重結合が5個
エン:二重結合がある
酸:カルボン酸:左側末端のCO2Hのこと
また、ドコサヘキサエン酸では
ドコサ:炭素原子が22個
ヘキサ:二重結合が6個
の意味です。
エイコサ、ドコサはあまり聞き慣れないと思いますが、ペンタ、ヘキサはペンタゴン(五角形)、ヘキサゴン(六角形)という言葉で聞いたことがあるかもしれません。
覚えていると、ちょっとドヤれるときがありますよ。
オメガ-3脂肪酸と胎児の発育
さて、本題の論文について見ていきます。
まずは、胎児、幼児の発育とEPA、DHAの関係についてです。
DHAやEPAのようなオメガ-3脂肪酸は胎盤を通じて、胎児に送られるので、これらの栄養素を妊婦が適切な量を摂取することで、胎児に良い影響があります。
2010年に米国保健福祉省の食事のガイドラインで、「妊娠または授乳中の人は週230~340gの魚介類を食べるべき」とされています。
DHA+EPAの量に換算すると、1日に300-900mg摂取することになります。
妊娠中に母親が十分な量のDHA+EPAを摂取していると、胎児に良い影響があり、生まれた後の子供の健康に重要であることが過去の研究でわかっています。
研究結果:健康面だけでなく知能の発達にも効果がある
- 16歳での喘息の発症率が低下した
- 前回の出産時に早産だった妊婦が、次の妊娠では適切な時期に出産になった(EPA、DHAがプロスタグランジンE2、F2αの産生を抑え、陣痛の原因となる炎症を減らすため)
- 9か月齢での問題解決能力が高い
- 幼児期における認知、言語が発達している
- 母体の炎症が起こりにくくなる
- 1歳児のアレルギーや湿疹が起こりにくくなる
子供への効果
これらの結果を見ると、健康面だけでなく、知能面でも良い影響がありますね。妊娠中の母親が魚介類を食べるかどうかで、子供の頭の良さも変わってくるということです。
もちろん、子供の努力も関わってきますが、小学校受験を目指している場合は、妊娠前から本格的に考えておいたほうがいいのかもしれません。
こう考えると、母は偉大です。
科学的に見た場合、子供の知能に影響があるということは、EPAやDHAのような脂肪酸は脳の神経細胞の形成にも関わっているのかもしれません。
オメガ-3脂肪酸と循環器系
アメリカでは死因の38%にあたる循環器疾患にもEPA、DHAは効果があります。
主な効果は、次の2つです。
- 炎症が抑えられる(EPA+DHAを摂取することで、遺伝子の発現が変化する)
- EPA+DHAの摂取で高感受性CRPが減少。CRPが増加すると循環器疾患のリスクが上がるので、EPA+DHAの摂取で循環器疾患のリスクが下がる。
研究結果:冠動脈系の疾患に対する効果については実験結果が分かれる
- スタチン系コレステロール低下薬と一緒にEPAを摂取すると、冠動脈疾患の経験のある患者の19%で、再発が抑えられた
(もっとも、冠動脈疾患の経験のない人でもEPAを一緒に摂取することで、冠動脈疾患の発生率を18%抑えられたという結果も出たそうなので、薬と一緒に飲むかどうかは関係なさそうです) - 糖代謝異常の患者がEPAを摂取すると、EPAを摂取しない患者と比べて、致死性の冠動脈疾患になる確率が0.78倍になった。
- 一方で、DHA+EPAを摂取しても、冠動脈系の疾患が減らなかったという実験結果もある。これについては効果があるのかないのかは不明。
オメガ-3脂肪酸とアルツハイマー病
アルツハイマー病は脳の病気として有名で、記憶が失われていく認知症が最も知られている症状です。高齢者の増加に伴い、患者数も増えていっています。
EPAやDHAとアルツハイマー病の関係についても多くの研究がなされています。というのも、DHAは大部分の神経細胞の細胞膜に存在し、神経系が正常に働くために一役買っているからです。
研究結果
- マウスの実験では、DHAを含むエサを食べていたマウスの方が、DHAを摂取していなかったマウスに比べて、40.3%もアミロイド斑(神経細胞の死滅によって起こると考えられている)が減った
- EPA+DHAを摂取していたアルツハイマー病患者の血漿中のIL-1B、IL-6(アルツハイマー病で神経細胞の機能不全に関係していると考えられている因子)が6ヶ月で減った
- アルツハイマー病ではしばしば体重が減少することがあるが、EPA+DHAを摂取していると体重減少を防げた。EPA+DHAの摂取で6ヶ月で0.7kg、12ヶ月で1.4kgの体重増加が見られた。
アルツハイマー病患者への効果
DHAが神経細胞の細胞膜に存在するということは、DHAの摂取と脳機能には相関があっても不思議ではないですね。むしろ、相関があると考えるのが自然です。
ということは、魚介類の摂取量と知能の高さには、子供やアルツハイマー病患者だけでなく、健康な大人でも相関が見られるかもしれません。そういった研究もやられていそうなので、探してみます。
体重増加と言うと、特に女性は「えっ、それならEPAやDHAを取りたくない」と思うかもしれませんが、あくまでアルツハイマー病になったときの体重減少を防ぐという話です。健康な状態で摂取しても、EPAやDHAが原因で体重が増えたりはしないです。(もし増えたら、ただの食べ過ぎです)
まとめ
日本は魚介類の消費量が多いので、EPAやDHAの摂取量は多いです。そのため、意識しないうちに十分な量のDHAとEPAを摂取している人も多いです。ですが、あまり魚介類を食べないという人は、これからは意識して食べるようにした方がいいですね。
EPAやDHAが体に良いことはよく言われていますが、僕も、具体的にどこに効くかがあまりわかっていませんでした。今回、Reviewを読んでみて、実験結果や良い影響を知ることができました。
胎児の脳の発達やアルツハイマー病の予防に関しては効果があるという結果ですね。循環器疾患については効果はありそうですけど、少し疑問が残る実験結果も出ているみたいです。他の論文も読んでみて勉強してみます。
本日も読んでいただき、ありがとうございました。