この記事のポイント
- 立った状態のほうが座った状態と比べて、認知速度が速くなることが実験的に証明されました
- 具体的には、Stroopテストで正答を答えるまでの時間が、立っている状態のほうが数十ms(ミリ秒)速くなった
- 頭をつかう作業のときは立っている状態のほうがいいかもしれない・・・
スタンディングデスクで作業効率が上がったり、健康になったりといったメリットが言われており、日本でも徐々に浸透しつつあります。僕もスタンディングデスクに興味を持って、2018年秋からスタンディングデスクを使いはじめました。
僕の主観ですが、立った状態のほうが眠くならず、集中力が上がった気がします。立っている方が体の自由度が上がって、適度に動けて、気分転換にもなっているような。
この論文だけで、スタンディングデスクを完全に支持する結果ではないですが、一応スタンディングデスクのほうがいいよ、という内容ではあります。
今はどこの学校でも机とイスをつかっていますが、もしかしたら、何十年後かには授業も試験も立って受けるということが普通になってくるかもしれないですね。
David Rosenbaum, Yaniv Mama*, and Daniel Algom
Ariel University
目次
背景:誰でも常にデュアルタスク
誰もが毎日、仕事なり勉強なりゲームなりで、机に向かうことはあるはずです。
このとき、誰しも常にデュアルタスク(2つのことを同時進行している状態)になっているものです。では、2つのこととは、何と何でしょうか?
1つはもちろん、そのときにしている作業です。仕事、勉強、ゲームなどがこれにあたります。同時進行している2つ目の作業はというと、姿勢を保つことです。当たり前すぎて意識していないかもしれませんが、仕事、勉強のような作業と姿勢を保つことは同時進行で行われているタスクです。
2つのタスクを同時に行っているということは、姿勢を保つというタスクの出来によって、もう一つの仕事、勉強というタスクにもプラスかマイナスの影響があるのではないか、ということが一般的に考えられています。
この考え方に基づいて、これまでに、歩く方向によって認知力が変化するかということが調べられました。その延長線上の実験として、今回の論文では、立っている状態と座っている状態を比較して、認知力が変化するかということを調べています。
手順:立った状態と座った状態で認知テスト
実験1
Tel Aviv大学の学部生17人(19-27歳、平均年齢23歳)にStroopテストを受けてもらいました。
Stroopテスト:色の名前が書かれた文字を見て、文字の色を答えるテスト。
例:
あか→青と答える(Incongruent:不一致)
あか→赤と答える(Congruent:一致)
当たり前ですが、文字の色と意味が一致している方(Congruent)が反応が速く、正解率も高いです。テストでは、色と意味が一致しているもの(Congruent)と一致していないもの(Incongruent)の両方が問題として出されます。
(より詳しい説明はWikipediaをご覧ください)
このStroopテストを立った状態と座った状態で行って、色を答えるのにかかった時間を比べました。
一人の被験者で、立った状態と座った状態の両方で、それぞれCongruentとIncongruentの問題が何問か出されました。立った状態と座った状態のテストの順番、CongruentとIncongruentの問題の順番が影響する可能性も考慮して、被験者は立った状態が先の人と座った状態が先の人、Congruentが先の人とIncongruentが先の人とに分けられました。
つまり、テストの順番は4つのグループに分けられました。(実験2,3も同様)
実験2
Tel Aviv大学の学部生16人(19-26歳、平均年齢24.2歳)に矢印の向きを答えるテストを受けてもらいました。
画面の上部と下部に、上または下を向いた矢印が表示されますが、上部、下部に関わらず、矢印の向きだけを答えます。
これも実験1のStroopテストと同じで、画面上部に上向きの矢印、画面下部に下向きの矢印があると一致(Congruent)、画面上部に下向きの矢印、画面下部に上向きの矢印があると不一致(Incongruent)となります。文章ではわかりずらいので、下の図をご覧ください。
被験者はモニターの前に立ち(または座り)、画面内のどこかに現れる矢印の向きをなるべく速く答えます。
このテストを立った状態と座った状態で行って、矢印の向きを答えるのにかかった時間を比べました。
実験3
Ariel大学の学部生50人(19-32歳、平均年齢26.1歳)に実験1と同様の実験を行いました。被験者に「立った状態の方が認知力があがる」という仮説を知らせないで実験を行いました。
実験1の被験者は17人と少ないので、統計処理で十分な信頼性をえるために、被験者の数を増やしたということですね。
結果:立った状態の方が認知力が上がった・・・かも!?
立つとレスポンスが速くなった
結論から言うと、立つ、座るという姿勢と色、向きの一致、不一致の測定順は関係なく、立っているか座っているかで反応速度に差があるという結果になりました。細かいデータは次の表のとおりです。(単位:ms(ミリ秒)、それぞれの条件での被験者の平均値)
座る・不一致 | 立つ・不一致 | |
---|---|---|
実験1 | 892 | 861 |
実験2 | 625 | 603 |
実験3 | 943 | 908 |
座る・一致 | 立つ・一致 | |
---|---|---|
実験1 | 785 | 785 |
実験2 | 523 | 572 |
実験3 | 803 | 804 |
実験1〜3で不一致の答えをする場合、立っているときと座っているときで、20~35ms速く反応するようになりました。この差は有意な差であるとのこと。つまり、統計学的には立っているときの方が座っているときより反応速度が確実に上がっているということです。
一致の答えでは立っても座っても反応速度は変わらない
2つ目のテーブルでは、立っても座っても反応時間は変わりませんでした。
答えがCongruent(一致)のときは、立ったからといって、特に反応が速くなったりはないということです。
「実験2でも立っている方が反応が71.54ms速い」と本文中では書かれていましたが、データをどう見ても、実験2ではそんなことはないような・・・。正直、71.54msという数字が、どこから求められた数字なのか、僕の力ではわかりませんでした。(矢印の向きが一致しているときは、むしろ立っているときの方が反応が遅いような。。)
僕の読解力の問題だと思うので、もっと勉強して理解できるときが来たら、この部分は修正しますm(_ _)m
ちょっと疑問は残る部分はありますが、今回の実験全体としては、座っているより、立っている方が反応速度が速いという結果になりました。
結論:立っているときの方が認知力が上がる(一応)
座っているより立っているときのほうが反応速度が速い、つまり立っているときに認知力が高くなるということのようです。
少し疑問が残る部分はありましたが、少なくとも色を答えるStroopテストに関して、答えが不一致(Incongruent)のときは立っているときのほうが反応が速いということです。
一応、スタンディングデスクを支持する実験と言えるではないでしょうか。
ただ、被験者の人数がそこまで多くないので、この論文だけで結論を出すのははやいです。それに、今回のテストは反応速度を調べているだけなので、スタンディングデスクでの勉強が良いということを完全に支持する結果とは言えません。