この記事のポイント
- 勉強・理解という点で見ると、紙の本の方が電子書籍より優れている
- 持ち運び、値段などの実用性の面では電子書籍に軍配が上がる
- 初めて学ぶ分野のときは紙の本
- 時間の制限があるときも紙の本
- 今後、デジタル・ネイティブ世代の年代が上がってくると電子書籍のほうが理解度が高くなるかもしれない
みなさんは本を読むときは、紙の本と電子書籍のどちらで読みますか?
最近はスマホで電子書籍を読む人が増えましたが、紙の本の需要もまだまだあります。
突然ですが、実用性の面では電子書籍のほうが使い勝手はいいです。それでも、僕はできる限り紙の本で読んでいます。
それは、電子書籍で本を読んでも、内容を覚えていないことが多いと感じているからです。体感では、紙の本を読んで10覚えているとしたら、電子書籍だと3~4くらいしか覚えていない気がします。
同じ時間だけ読書しても半分以下しか記憶に残らない気がするので、それなら紙の本のほうがいいと思って、紙の本を読んでいます。反対に、内容を覚える必要がなく、冊数が多くなりやすいマンガは電子書籍で持っています。
僕個人の体感としては紙の本のほうが優れていると思いましたが、科学的にはどうなのかと疑問に思い、今回の論文を読んでみました。
Pablo Delgado, Cristina Vargas, Rakefet Ackerman, Ladislao Salmerón*
(University of Valencia)
Educational Research Review 2018, 25, 23-38.
目次
背景:電子書籍の普及
これまでに行われた、本の内容の理解度を調べる研究では、読者の性格、文章の内容やデザイン、読み方が理解度にプラスの影響があるかということが、調べられていました。
それに対して、読書するデバイス(紙 vs 電子書籍)はほとんど無視されてきました。
紙の本と電子書籍での理解度の比較実験
デバイスの違いによる本の内容の理解度について実験されたこともありました。
その研究では、紙の本で勉強したほうが理解度が高かったという結果が出ました。さらに、紙の本で読んだときのほうが、自分がどのていど理解しているかという、自己評価も正確でした。一方、電子書籍で勉強したグループは理解度が低く、テストのスコアも自己評価が高くなる傾向がありました。
つまり、電子書籍で勉強すると、実際はあまり理解していないにもかかわらず、理解したつもりになりやすいということです。
また、読書のときに、時間の制約がある場合も、紙の本の方が理解度が高くなりました。はやく読もう、読み終わったあとに〇〇をしようと思ったりして、読書をすると、紙の本のほうが理解しやすいということですね。時間に追われていると陥りやすい状況です。
被験者の選別
これまでの研究で、紙の本のほうが理解度が高くなりやすい、という結果が出てはいます。
しかし、これらの研究では、被験者のデジタルデバイスとの関わり方について、特に触れられていませんでした。
すなわち、被験者が子供のころは、今ほどデジタルデバイスが普及していなかったので、紙の本で勉強をしてきたはず。あるいは、大人になってからも、人それぞれ、デジタルデバイスを使う時間には差があるはずです。
そういった世代が被験者となって、紙の本とデジタルデバイスで読書の理解度を比較しても、慣れ親しんだ紙の本のほうが有利なのではないか?という疑問が、当然でてきます。
これまでのメタ分析
紙の本と電子書籍に関するメタ分析は以前も行われていますが、結論が一致していませんでした。
というのも、紙の本と電子書籍を比較すると言っても、電子書籍のデバイスにもパソコンやタブレットなど種類があります。また、ハイパーリンクやアニメーションを使用するなど、紙の本と直接比較できないファクターもあります。
ただ、これまでのメタ分析では、こういった機種や機能の差を考慮していませんでした。
また、デジタルデバイスが社会にどのていど浸透しているかも年々変わってきているので、実験が行われた年代によって、結果が変わってくる傾向もありました。紙の本と電子書籍を比較する研究は、最近の研究になるほど、電子書籍の方が理解度が下がるという結果が出なくなってきています。
被験者が普段から、もしくは若い頃にデジタルデバイスに触れてきた経験があるかないかによって、どちらのデバイスがよいのかが変わってきているのではないか、と考えられています。
すなわち、デジタルデバイスが普及してきて、普段から電子書籍で読む習慣ができている人は紙の本より電子書籍の方が理解度が高いのではないかという仮説がたてられます。
ただし、これはデジタルデバイスを使い慣れている人が紙の本で理解しにくくなったのではなく、デジタルデバイスでの理解度が向上してきたという意味です。
メタ分析の目的
著者らは、このメタ分析で、次の2つを目的としています。
- デバイスが内容の理解度やアウトプットに影響するか確かめる
- 内容の理解度やアウトプットに影響するファクターを確かめる
手順:論文の選定
論文の選定基準
次の基準を満たす論文を選び、メタ分析が行われました
- 紙に印刷された本とデジタルスクリーン(パソコン、タブレット、スマホ、電子書籍リーダー)で表示された本で比較した実験
- 被験者が個別に、静かな環境で読書をした実験
- 紙の本とデジタルデバイスで直接比較できる実験(ハイパーリンクやウェブ上に解説がある電子書籍を使っていない)
- 被験者が母国語で実験に参加したもの
- 定型発達の人を対象とした実験(識字障害などの障害のない人を対象とした実験)
- 比較した実験結果を含む論文(レビューは除く)
- 2000-2017年に出版された論文
- 英語で書かれた論文
- 統計処理され、定量的な議論がされている論文
- 統計処理に必要なデータが書かれている論文
このメタ分析では、のべ171055人の被験者分を含みます。
結果:紙の本で間違いない
「紙の本のほうが理解度が高くなりやすいというのは間違いない」のが、今回のメタ分析の結論です。
こういった論文の結果があるにもかかわらず、現在の社会的には、学校でもデジタルデバイスを取り入れる傾向にあります。理解度が低くなることがわかっていたら、教育現場では、とても使えないはずですが。
デジタルデバイスを教育現場で取り扱うときは、効果的な使い方を模索して使うべきですね。
紙の本のほうが理解度が高くなるファクターとして、時間的な制限はとても影響が大きいです。ビジネス書のような知識を得る本では、特に時間の制約の影響が強く、時間制限があるときに電子書籍で読んでも内容が頭に入ってこないです。
逆に物語調の本ではデバイス間の差はほとんどなかったという結果になりました。小説や伝記のような物語調の本であれば、時間の制約があるときでもないときでも、紙の本でも電子書籍でも、関係なく理解しながら読めるはず。
電子書籍を読むデバイスの効果
デジタルデバイスでも、パソコンと手持ちのデバイス(スマホ、電子書籍リーダー)でわずかに差があることがわかりました。スクロールが悪影響らしいので、画面が小さいデバイスほどスクロールが増えて、理解度が落ちるみたいです。
理解度に影響しないファクター
次のファクターは理解度に影響しないものです。
- 年齢
- 教育レベル
- 文章の長さ
- 理解度のテストの方法(選択式、記述式など)
紙の本と電子書籍で理解度に差がでる理由
デジタルデバイスを使用した場合、読書に限らず、思考やプロセスが浅くなりやすいという仮説が他の実験で提唱されています。
この仮説に基づくと、読書では本に没入しにくくなるため、理解度が下がるのではないかと予想できます。
これは多くの方がなんとなく体感していることではないかと思います。iPadでメモをとったり、文書の添削をしたりといったことが広がってきていますが、どうしてもアナログの方法ほど頭に入ってこないという人は多いはず。僕もなんとなく体感していたことではあります。
読書の理解度も、この現象と同じみたいです。
結論:現状では「紙の本」が優勢
メタ分析の結果としては現状では「紙の本」の方が電子書籍より理解度が高くなるという結論です。
ただし、あくまでも「現状」での結論です。デジタルデバイスが浸透しつつあるなかでは、今後、どうなっていくかはわかりません。デジタルデバイスと紙の本での理解度の差はより小さくなっていくだろうと予想されます。
一部の小学校では授業でiPadを使用することもありますが、そういう子供が大人になったときは、もしかしたら結果が逆転するかもしれません。
つまり、紙の本よりデジタルデバイスのほうが理解度が高くなるという現象が起こる可能性はじゅうぶんにあります。